大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和61年(行ツ)147号 判決

千葉県成田市本町五八七番地

上告人

北総興業株式会社

右代表者代表取締役

諸岡璋二

右訴訟代理人弁護士

斎藤尚志

千葉県成田市加良部一丁目一五番地

被上告人

成田税務署長

小笠原久三

右当事者間の東京高等裁判所昭和六〇年(行コ)第一七号法人税の更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和六一年六月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人斎藤尚志の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解せず、原審の認定にそわない事実若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林藤之輔 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一)

(昭和六一年(行ツ)第一四七号 上告人 北総興業株式会社)

上告代理人斎藤尚志の上告理由

第一 原判決は、憲法第二二条職業選択の自由につき釈放を誤り上告人に墓地経営の見込なしとした第一審判決を引用した違法を犯し、更に同法第一四条法の下の平等に反する判決であるから取消されるべきである。

一 原判決は、その理由において、殆んど第一審判決を引用しているのであるが、第一審判決は「墓地の経営許可については、墓地を適正に管理しなければならないなどの考えから、原則的には地方公共団体、宗教法人、公益法人等非営利性が確保される者に対して許可される実務上の取扱いがなされており原告会社がこの許可を受ける可能性は殆んどない」と判示しており、右は乙第一号証である、昭和二一年九月三日発警第八五号内務省警保局長、厚生省公衆衛生局長から各地方長官あて連名による依命通牒の内容を殆んどそのまゝ判示文言としている。

二 右通牒はその前文において従前の通牒は、「個人又は特殊の者の専用に供するようなものは、その理由の如何を問わず認めない方針であつた」が、その方針を緩和し「新設・拡張も許可するよう取り計らいたい」とし、その第5項において「山間等人里遠く離れた場所で、墓地の設け全く無く新設の必要ある場合は、個人に許可するも支障ないこと」とし、個人(営利法人も含む)に対しては自己所有地(墓地新設予定地)が「人里遠く離れた場所」でなければ墓地経営を許可しないとの行政指導を是認して職業選択の自由を制限する結果となり、引いては法の下に平等であるべき、個人とその他の法人を差別する結果を招いている。

三 第一審判決を引用した言判決は、右通牒を鵜呑みとし、墓地経営は「許可を受ける可能性は殆んどない」と断定している。原判決等が右一事だけを理由として上告人の請求を却けたと考えるものではないが、原判決は判決理由に右の如き判示をしながら、右通牒の後である昭和四一年二月七日、諸岡璋二が個人として墓地経営を許可されたことも判示しているのであつて、理由として万人をして納得せしめるものではない。

もつとも上告人は、上告人が墓地経営者であつたこと又は将来あり得ることを主張立証せんが為右指摘をしているものではなく、第一審以来主張しているように、本件土地が不動産業者である上告人の所有していた棚卸資産であるから、措置法第六五条の二の適用を受け得ないものであるという、原審判決および第一審判決があまりにも税務署偏重であり、上告人の主張を顧りみない姿勢の前提として伏在しているからにほかならない。

第二 原判決は不公平な審理を行い、憲法第三二条の裁判を受ける権利を奪つた違法がある。

一 裁判を受ける権利は形式的なものではなく、実質的に国民の権利が保障されなければならないことは当然であつて、民事訴訟においては、相手方の訴訟追行権者がたとえ公務員であつても、その作成文書については、民事訴訟法第三二三条を安易に適用すべきではない。

右法条は、当該訴訟の当事者ではない第三者である公務員が作成した書証に限定して適用すべきであつて、民事訴訟の相手方機関である公務員が作成した書証に適用すべきではない。

本件の場合、上告人は小坂石材店から事務所を貸借し、他方上告人所有地を小坂石材店の石材置場として賃借し、賃料は相殺していたとの主張をなしたのであつたが、原判決は乙第五号証の一〇乃至一二を適示しているのであつて、原審までの間において上告人は被上告人の機関である大蔵事務官が作成した聴取書については絶えず争つてきているのであつて該証拠(乙第六号証乃至第一七号証)を事実認定に供することは、憲法上の右裁判を受ける権利を剥奪するものである。

二 原判決は、第一審に付加した理由として「のみならず、たとえ本件事業年度以前に控訴人が本件土地を除く他の所有土地の一部を他へ賃貸するなどしていたとしても、それによつて、本件土地を棚卸資産と認定することが妨げられるものでない」と判示するが、上告人は控訴審に至つて右判示にある「本件土地を除く他の所有土地の一部を他へ賃貸した主張をなし(昭和六一年一月一六日付準備書面)且書証を提し証人尋問を申請して立証しようとしたのであつたが、証人尋問をなすことなく判決したのである。

原審は甲第一七号証以下の成立を審理することなく、従つて同号証についての上告人の立証の機会を奪つた(にも拘らず、甲第一七号証を賃貸していたことがない証拠として挙示しているが)ものである。

又原判決は、右判示に続けて「先に見たところから明らかである」と認定するが、「先に見た」というところを、原判決ならびに原判決が引用する第一審判決を再三再四読み返したが、上告人所有土地を他へ賃貸したとしても、本件土地が棚卸資産と認定することの判示は見当たらないのである。仮りに判示されているとしても、上告人所有土地は棚卸資産であるところを指すものと解するほかないけれども「他の所有土地の一部を他へ転貸するなどしていたとしても」上告人所有土地は、棚卸資産であるということに帰する結果となり、循環論法となつて全く上告人を納得せしめる論理となつていない。

三 本件は上告人所有土地が販売に供する為の棚卸資産であるか固定資産であるかが争点であり、本件土地を除く他の所有土地を賃貸するなどしており、土地を販売目的で所有していないということになれば、本件土地だけが販売目的の棚卸資産という極めて不条理な結果となるのである。

従つて上告人所有土地は他に賃貸などしていたとしても、本件土地を含む上告人所有土地は棚卸資産であるという明確な認定がなされなければならない。にも拘らずこの認定は、全くされないまゝに「先に見たところ」と一蹴されているのであつて全く納得がいかないものであつて、これでは法律に従つた裁判を受けたことにはならないのである。

四 民事訴訟一般についても例外ではないけれども、殊に税法については実質課税主義によつているものであるから、税法の裁判においても同主義をとるべきにも拘らず、原判決は乙第五号証の一〇乃至一三(上告人の昭和四九年以降の決算報告書)に小坂石材店への賃料支払と材料置場賃料収入が記載されていない故上告人所有土地の賃貸を認めないとしているが、形式主義という外なく、実質的な裁判を受ける権利を奪つたものと言わざるを得ない。

上告人が設立以来、小坂石材店の店舗を借りて本店としていることは、乙第四号証の一乃至三・乙第三〇号証の登記簿謄本および乙第三七号証六の二の地代家賃内訳記載から明白であつて、上告人が小坂石材店から無償で事務所を賃借しているのでなければ、他の方法即ち、上告人が小坂石材店に何らかの請求権があるから、相殺によつて処理したからであると認定すべきものであつて原判決は税務訴訟における実質主義に反した端的な表れというべきものである。

五 上告人が昭和四六年五月に道路公団に対して売渡した土地について措置法第六五条の二を適用受けたにも拘らず、本件において適用しないのは税法における信義則に反すると主張したのに対し、原判決は仮りに前者の扱いが誤つたものであつたとしても、その故に本件を右と同様の誤つた取扱いをすることが信義則上の要請と解することができないと判示する右判示は昭和四六年五月の売渡しが誤つた取扱であるとの前提に立つているが、右売渡しにつき措置法第六五条の二を適用したことが誤つたものであるとの認定は何ら為されてはいないのである。

国民が国の公共事業の為にその所有土地を売渡すについて若しこれに応じなければ強制収用等の強権が発動される、売らない自由が制限されている場合であるから、国は措置法第六五条の二を設けて税法上優遇しているのであり、昭和四六年五月の売渡しは正にその立法精神に則つて右法条を適用したのである。本件はこの場合と同一の売渡しであるにも拘らず、会計検査院の指摘があつたからとして、前の取扱と異つた取扱をなし、前の取扱は誤つたものであるかもしれない(原判決は仮りに、とその趣旨を表現する)し正しいものかもしれないけれども、本件売渡しは棚卸資産の売渡しであるから措置法第六五条の二は適用しないのが正しいと言うのである。

さきには上告人に税法上の優遇措置をしておきながら、その措置は誤つていたのかもしれないから、今回は優遇措置をしないと言うのであつては、さきの優遇措置が誤つたものであるとの認定が裁判上も明確にならなければ、国民の裁判を受ける権利は奪われたものと言わざるを得ないのである。

六 第一審判決および原判決の論拠のひとつとして、上告人所有土地を貸借対照表の流動資産の部に計上し、損益計算書には営業損益の部に土地売上と計上しているということがある。

このことは山根税理士が勝手にやつたことであつて、上告人の預り知らぬところであるが、真実上告人は不動産販売によつて利益をあげる考えはないのであり、右会計処理は誤つていたので、昭和五一年度の決算においてはすべてを山根税理士が変更した以前の状態、即ち事業種目を「墓地・墓石の販売」所有不動産は固定資産の部に計上した(甲第二二号証)。

行政訴訟といえども当事者は対等であるから、誤つた処理を正しい姿に戻すことは、前項で原審が述べると同じ意味において容認されるべきものであつて、法の下の平等の原則は無視されてはならない。

然るに原判決は右甲第二二号証の取調べも為さず右原則に反したのである。

以上

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